top of page

【第6話】 社員を増やして、業績を悪化させない

  • 執筆者の写真: Tatsuya Sugimoto
    Tatsuya Sugimoto
  • 2018年2月27日
  • 読了時間: 11分

更新日:2月1日

社長の収益向上戦略「リーダーズ通信」より

【第6話】 社員を増やして、業績を悪化させない

1.量産の分業ではなく、質の高い業務のための分業を目指す!

●不祥事と分業化

 最近の企業不祥事といえば東洋ゴムの免振ゴム試験データ偽装、三井住友建設の杭打ち工事データ改ざん、三菱自動車のカタログ燃費不正計測と再測定で燃費詐称、東芝の長期に及ぶ不適切会計など大きくニュースに取り上げられた不祥事ですが、毎日のように多くの企業で様々な事件や不祥事が起きています。

 「フジサンケイ危機管理研究所」や他のサイトには毎月の企業の事件・不祥事リストが掲載されています。これらは、一見するとバラバラの出来事のように思えますが、実は、共通する部分が存在します。

それが、分業化です。

 分業化とは、仕事という様々な作業が混在している物をカテゴリー別に分けて、それぞれの専門家に任せることです。一つの製品を作って売るという会社がある場合、設計・製造・営業・経理・経営等の部署に分けて、それぞれを専門的に作業させたほうが、効率が良くなります。

 この方法は、会社組織に人が増えてくるとともに、一人の人間が関わる全ての作業を行うよりも、遥かに効率的です。同じ作業でも、専門家がまとめてやることで短時間、且つ、低コストで行うことが出来る為、分業化は企業の成長に必要不可欠といえます。

 ここでは、この分業についての考え方と構築のポイントを説明すれば営業は営業部門、開発は開発部門、事務は事務部門という形で、複数の人員が役割を分担して商品(サービス)を生産提供することで、高い生産性を得ることが可能となります。分業する目的、すなわち、分業のメリットは、大きく次の3つになります。

①効率性:効率を高め、生産性をアップする

 似通った業務をその担当者や部門にまとめることで、 モノや人の移動と段取り替えの作業を減らし、生産の効率を上げることができます。

②専門性:専門性を高める、スピードを持った進化が可能になる

 1つの分野を、そのプロフェッショナルが担当することで、改良や開発のスピードを上げることができます。その成長の速度も速く、高いレベルが維持できます。

③ 業務の簡素化・難易度を低く出来る

 高度な業務も、細分化することで、難易度を下げることができます。それにより、業務で求める能力の許容範囲を拡げることができるので、人の確保が容易になります。新人でも短期間の訓練で出来る、難易度の低い業務をつくり出せます。また、派遭や短時間労働のスタッフの活用も可能になります。

その結果、スピードを持った事業の拡大が可能になります。分業というと、流れ作業的な量産現場を思い浮かべる方も多いと思いますが、本来、高度な商品(サービス)を生み出し、提供するために必要不可欠なのが分業です。会社は、この分業により、効率とともに、強さも手に入れることができます。10名で15名分の生産性を得ることができるのです。

 そして、30名、 50名、100名、1,000名と規模が大きくなるにつれ、より業務は細かく分担され、より大きく分業のメリットを得ることができます。それぞれの分野のプロフェッショナルが活躍するのが、会社という組織なのです。

 しかし、分業化はこれだけ多くのメリットがあるにも関わらず、多くの中小企業がその恩恵を受けられていません。分業し各部門が機能的に動くためには、当然、必要とする仕組みがあります。創業当時のように、1人で最初から最後まで業務を行うのであれば、問題は起きません。受注量の増加とともに、それをこなすために人を増やしていきます。

 また、外注業者も増やします。このときにこそ、なんとなくその分業が機能することはありません。分業する仕組みをつくっていくことが必要になるのです。その分業するための仕組みづくりが、後手に回ったり、順番を間違ったりすれば、たちまち「分業」による問題が生じて生産性を上げるための分業が、かえって生産性を下げてしまうことになります。

2.リレーで走ると、バトンを落とす

 分業すると、必ず部門間のやり取りが発生することになります。営業が受けてきた案件を、企画担当に渡し、また営業に渡す、そして、受注が決まれば、それを・・・という流れです。当然、この流れが自然にできるようになることはありません。

分業を機能させるための仕組みの構築の手順は、「業務の流れを設計する」、それから「各業務を固める」というものになります。

 担当を分ける前に、どんな情報を、どんな媒体(紙、メールなど)で受け渡すのかを決めておく必要があります。また、その際には、社長承認や在庫の管理なども織り込んでいきます。

私は、常日頃、分業をバトンリレーに例えて説明をさせていただきます。

 創業当初は、1,000mを社長1人で走っていました。それを5名で分担すれば、1人200m走ればいいことになります。随分楽になります、その分、各ランナーは全力で走る事ができます。その結果、1人で走るより、早くゴールすることができます。

 しかし、問題も起きます。それは、バトンの受け渡しのときです。その際、受渡しに手間取ったり、バトンを落としてしまったりということが起きます。そして、その結果、1人で走るよりも時間が掛かり結果的に、他のチームに追い越されます。

 このバトンの受渡しを、しっかりとした仕組みにしておかなければなりません。上手なバトンの受渡しの仕組みが機能しないと、業務の流れの仕組みができていないことを起因とするミスや不具合が高い割合を占めます。ある会社では、「納品まで完了しているのに、請求書を出していない」ということまで発生しています。

 売上が伸び、社員数が増え、この分業を進める過程で、しっかりとした仕組み作りを行う必要があります。それをやらずに、やみくもに売上や社員数を増やせば、やがて多くの問題が発生するようになります。

 更に、今後、売上が増えれば、さらに分業を進めることになります。1,000mを5名で走るところを、10名で走ることになります。バトンリレーについて、何も対策を打たず、ぶっつけ本番でスタートをして、1度もミスをせず走り切ることの方が奇跡に近いのです。

 また、業種によっては、仕入先や外注先などの関係者も多くなります。特に、サービス型事業では、関係者が多く、情報の受渡しの頻度も多くなります。そのため、より機能的な仕組みが必要になります。

 製造業は、その製造過程から納品まで、モノとして見えるモノがあり、それがバトン替わりになります。それに対して、サービス型事業では、そのバトンがモノとして見えません。顧客の要望や状況など、すべての情報を何かしらで「見える」ようにしなければいけません。バトンリレーに参加する全部門が、その顧客の要望やその意図などを把握する必要があります。そして、その状況に応じ、各部門が「業務の進め方を調整すること」や、「その品質に責任を持ち、次の担当に回す」ことができる必要があります。

3.「右腕がほしい」「優秀な人材がほしい」は正しいか?

 一見、このバトンリレーができている会社でも、「実は1人の人材」が回しているケースは多々あります。その1人が、各部門の業務をチェックし、その時々に指示を出しているのです。

 その指示があって初めて、各部門が動けるという状態です。もしも、社長が、この1人の役割を担っていれば、益々社長は現場を離れられなくなります。また、この1人が「優秀な人材」であっても同じことです。その人材が現場を離れられなくなります。

 そして、受注量が増えれば、また「同じような人材を増やすこと」に向かいます。その結果、「誰も休めない」、「誰かが辞めたら・・・」という、より窮地に追い込まれることになります。

 また、バトンリレーができていないと、人間関係にも悪い影響を与えることがあります。本来なら、仕組みの問題であることが、「あの人は気が利かない」や「連絡をくれない」という、その人の人間性やヤル気の問題にすり替えられてしまうのです。

 その対策として、「懇親会」や「コミュニケーション研修」などの場を持つ事になります。これらにより一時は持ち直すものの、根本的な解決にはなっていないために、時間の経過とともに元に戻ることになります。

 そして、そのまま月日が経過すると、優秀な人が辞めていくことになります。彼らは、口には出しませんが、その原因が仕組みにあることに気付いていることが殆どです。そのため、不効率を続ける状況に耐えられなくなり、会社に見切りをつけることになります。

 絶対に特定の人に仕事を任せるという発想を持つのは余程、高度なスキルを必要とする以外は危険です。特定の人が居なくなると仕事も無くなるか、代わりができるまでコスト増や混乱が発生する可能性があります。そのような状況にならないように特定の人が居なくなっても仕事が続けられる仕組みをつくる事です。

4.仕事に人に携わる「多能工化」とは

 組織における役割・業務分担は「人に仕事が携わる」のではなく「仕事に人が携わる」ことであり、業務の標準化を実現するものです。

よく改善の現場に携わると「あの仕事はあの人じゃないと触れないから・・・」といった古参社員やお局様の壁にぶち当たることがあります。これでは、改善が進みづらいのは誰でも容易に想像がつきます。

 私のクライアント先でも支援当初は、「自分の担当する業務ばかりが忙しくて、なかなか家に帰れない」とか「手伝ってもらいたくても自分しか分からないし」といった現場リーダーの話を聴きます。ただ、こういった「単能工」で「多量」の働き方では、改善活動はなかなか上手く進みません。

 トヨタではこういった「仕事のムラ」を少なくするため、昔から「多能工」という働き方が推奨されていますし、実際に仕組み化されています。「多能工」とは特定の業務を特定の人が担当するのではなく、特定の業務を様々な担当者が出来る様になることです。そうすることで、誰が担当しても仕事が進みますし、多様な視点が入っていきますので改善提案も活発になっていくのです。

 少人数企業や部門では、必然的に「多能工化」が進んでいる一方、大人数の部門では業務の担当、役割が分かれているため一人の担当業務の内容が深く範囲が狭い、いわゆる「単能工」が多いのが実情です。

●多能工を増やすメリット、効果とは

 例えば、少人数の事務部門では、必然的に「多能工化」が進んでいるでしょうが、人数の多い事務部門では業務の担当、役割が細かく分かれているため、1人の担当業務が深い&狭い「単能工」が多く、他の人には分からない業務が多いのが実態です。

 そのような中で、多能工を増やすことで、以下のようなさまざまな効果を生むことができます。

①部門内の業務を平準化できる

 「平準化」とは、業務量・業務負荷などが特定の時期に集中しているといった偏りを減らし、均等に近づけることです。部門内で各担当者の業務が特定の時期に集中して、月末に忙しい人、月初に忙しい人、毎週木曜日に忙しい人がいると思います。

 そして、1人が忙しく残業が多くても他の人は手伝ってあげられない。そのような場合、多能工化が進んでいれば、忙しい業務を複数の人が分担し、平準化することができます。

②1人業務を減らせる

 多能工化が進むと、単能工が抱えている「1人業務」( 部内で「Aさんしかできない業務」)が無くなります。

 このような一人業務があるとAさんは休みを取りづらかったり、休むとその業務が滞ったりします。Aさんが異動、休職(出産、育児など)、退職するときにも引継ぎが大変です。多能工化により、このような問題も解消されるのです。

③業務改善が進む

 多能工化を進めるプロセスが業務改善を促します。多能工化を進めるためには、今まで行っていない人にその業務を教えなければなりません。

 教わる人は、未経験者として素朴な視点で疑問を持ち、質問をしてきます。 「何のためにその作業を行うのですか?」「なぜ、そういうやり方をするのですか?」「こういう別のやり方もあるのではなのですか?」・・・などなど。教える人は今まで当たり前にやってきた仕事に対して、このような質問を受けて面食らうかもしれません。  

 しかし、このような質問と、質問への回答というキャッチボールによって業務改善が行われていきます。

④「教える」「教わる」スキルが高まる

 業務を教える側、教わる側それぞれのスキルが高まります。

 教える人は、自分の業務の目的や進め方を整理しなければなりません。なんとなく頭で分かっていたものを人に説明するために「言葉」で整理するのです。これを「暗黙知」を「形式知」にすると言います。「教えるスキル」が高まるのです。

 教わる人も、相手の話をよく聞き、ポイントをメモし、質問をする、という「教わるスキル」が高まります。教わるスキルを高めないと、教える人に何度も同じことを説明させることになってしまいます。

 こうして教える側、教わる側、それぞれのスキルが高まることで、その後の部門内での「業務改善」や「多能工化」が加速していきます。

 経営環境の変化の規模もスピードも高まっている現在、それらに対応できる柔軟な組織となるための一つの方策として、職場の多能工化を進めていくことが必要だと考えます。

《まとめ》

①分業により「専門性」「効率」「業務の低度化」を実現する。売る力により、ボリュームを増やし、さらに業務の効率を大きくする。

②リレーで走るとバトンを落とす。業務を分担し、各部門で回すためには、仕組みが必要になる。

③多能工化は、多能工スタッフが増えたことのメリット(結果としてのメリット)だけでなく、多能工を増やす過程においてもメリット(プロセスでのメリット)が生まれることをご理解いただけたと思います。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

有限会社リーダーズ愛媛 

代表取締役 竹田 富男(たけだ とみお)

HP:https://www.leaders-ehime.com/

Eメール:t2@world.odn.ne.jp

住所:愛媛県松山市清水町4丁目75-1  

TEL:089-922-9423

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

最新記事

すべて表示
【第9話】儲けられる会社を作るには社員を強くする!

1.組織を精鋭化する  会社経営は、どれほど素晴らしい戦略と戦術だとしても、それを成果に繋げるのは社員の協力が必 要です。社員が戦略や戦術を理解し、実行しなければ決して業績は伸びません。そこで、社長と同レベルの強い業績向上の意欲を持ち、かつ、強い実行力を持つ組織をつくり上...

 
 
 
【第8話】 “社員の成長が遅い”本当の原因とは?

社長の収益向上戦略「リーダーズ通信」より 【第8話】 “社員の成長が遅い”本当の原因とは? ●仕事を教えたが、その通りに出来るのが遅い、そのため成果が上がらない 。  企業の成長を支える人材の採用と戦力化を考えた時、企業発展は「良い戦略と戦術」と言われるでしょう。しかし...

 
 
 
【第7話】 新人を短期間で戦力化する方法

社長の収益向上戦略「リーダーズ通信」より 【第7話】 新人を短期間で戦力化する方法 1.採用後、いかに短期で稼げるようにするか ●間違った考え、 間違った態度の社員を量産している現状  建築工事会社のB社では、顧客である取引先の需要拡大に伴い、急激に増える売上に対応する...

 
 
 

Comentários


特集記事
後でもう一度お試しください
記事が公開されると、ここに表示されます。
最新記事
アーカイブ
タグから検索
ソーシャルメディア
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square
図書館の本棚

©1991-2025 リーダーズ愛媛

bottom of page